02年1月号 「輪廻する世界 井内洋と『プロジェクトRS』」

『斑鳩』を前にして、我々が知っておくべきこと。

04/03/15 アップ
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●本文

 今回のお題は、ゲーム単体として捉えた場合は『レイディアントシルバーガン(トレジャー/98年)』(以下シルバーガン)ということになる。もちろん、発売年だけを見るならば、本来このコーナーでレゲーとして取り上げるほど古い作品ではないかも知れない。
 しかし、『シルバーガン』をはじめとする「プロジェクトRS」に込められた、開発者・井内洋氏のスピリッツは、このページに関心を寄せてくれる読者の琴線に、必ずや触れるものと思う。
 今回のオールドゲームミュージアムでは、筆者の最大級の敬意と共に「井内洋とシルバーガンの世界」を紹介しよう。


■輪廻のサイクル

 『シルバーガン』の世界や、それが生まれた理由をより深く理解するためには、井内氏がどういった視点でゲームの進化を見ているかを知る必要があるだろう。
 まず、氏の思考は、「多くのものごとは、ある程度のサイクルで循環している」という概念がベースになっている。ファッション、映画、音楽、アニメなど、さまざまなジャンルでこの現象が見られるわけだが、ゲームの進化・発展も同じと捉えているのだ。
 考え方そのものはもちろん、この現象を示す言葉として「輪廻」という表現を好んで用いていたことも非常に印象深い。井内氏は、ゲームもこの「輪廻のサイクル」の中で、キーとなる作品を起点として、時代時代に合った要素を付加され進化している、と考えている。
 「これは自分がそう思っているだけで、異論もあるかとは思いますが」という断りは入ったが、その分析には説得力があり、筆者はとても興味深いものに思えた。
 例えば、地形のある横シューの基本形は『スクランブル(コナミ/80年)』の時点で既に完成していて、それを起点として1サイクル目の横シューが発展していった。そして「パワーアップ」という、時代に合わせた要素を付加して成功したのが、言わずと知れた『グラディウス(85年/コナミ)』だ。この作品が地形横シューの2サイクル目の起点となり、コナミ、アイレムを中心とした80年代後半のパワーアップ型横シュー黄金時代をリードしていったのだ。井内氏の言う「サイクル」の考え方を80年代横シューのジャンルに当てはめると、こんな解釈になるだろう。
 ビデオゲームが出現してからおよそ30年が経過し、歴史の長いジャンルは例外なく飽和状態に達した。現在人気のあるタイトルも決して「新しい」わけではなく、そのジャンルにおいて、より研ぎ澄まされているにすぎない。
 こういった現状で井内氏がゲームを作る際に最も重視しているのは、「幅を出すこと」だという。アーケードゲームはライトユーザーの遊びやすさを優先させ過ぎた結果、過去の名作が生み出した多くの魅力的な要素を切り捨て、「幅」が狭くなっている、と指摘する。ここで氏が言うところの「幅」とは、「多様性」という言葉に置き換えると分かりやすい。
 90年代に入ると、一般プレイヤーが取っ付きやすい、「ショット+ボム型」の縦シューが主流となり、マニアックな横シューは急激に衰退。地形要素から成るパズル性や、凝ったパワーアップの面白さを備えた作品数も少なくなっていった。
 このように、少なくともシューティングというジャンルでは、このころから「幅」が狭くなってきていることはあきらかだ。この流れは、90年に発売された『雷電(セイブ開発)』が、サラリーマンなどの一般層にもウケたことがきっかけになっている、と井内氏は見ている。


■「プロジェクトRS」

 「多様性を犠牲にして、ライトユーザー寄りのシューティングばかりになった挙句、そのライトユーザーにすら飽きられた後に何が残るのか? アーケードからシューティングというジャンルそのものが無くなりかねない」。「プロジェクトRS」は、このような思いが原動力となって生まれた。
 『シルバーガン』の中では「地形」「パズル性」そして「狙い撃つ感覚」の三要素が、再現された過去の魅力的な要素として際だっている。いずれも90年代後半からの主流である、バリバリ系シューティングにはまず見あたらない要素だが、ここで特に注目してほしいのは、最後に挙げた「狙い撃つ感覚」。
 実は井内氏は、幼いころから結構なゲーム小僧だったらしく、ビデオゲーム登場以前からゲームコーナーに出入りしていたようだ。
 『ポン(72年/アタリ)』『スペースインベーダー(78年/タイトー)』の出現をリアルタイムで体験し、特に『スペースインベーダー』は最も深く心に焼きこまれたタイトルだそうだ。その後も『ギャラクシアン(80年/ナムコ)』『ギャプラス(84年/ナムコ)』といった固定画面シューティングはかなりプレイしていたという。
 『シルバーガン』において、チェーンコンボで得点を稼ぐために必要な「Aショット単発打ち」の独特なプレイ感覚は、この手のゲームの「単発のショットで精密に敵を狙い撃ちする面白さ」を現代に復元するための手段でもあったのだ。


■目に見えぬものを感じよ

 『シルバーガン』で再現されている過去の魅力的な要素、80年代横シューの地形やパズル性、ギャラクシアンライクな狙い撃ち感覚などは、ゲーム性の面からプレイヤーに何かを訴えかけていた。
 しかし、このゲームのストーリーや世界観(ただしそれは、アーケード版をプレイしているだけではなかなか全貌が見えてこないものだったのだが……)を理解すると、さらに深いメッセージの存在を感じ取ることができる。
 『シルバーガン』のストーリーにおいて、人類は同じ過ちを繰り返し、同じ破滅の歴史を延々とループする存在として描かれている。
 井内氏によるとこれは、もはや新しいものは生まれ得ず、輪廻するサイクルの中で発展するしかないゲームの世界を投影したものだというのだ……!
 そして、ゲーム開発者としての自らの存在と行為を、劇中に登場するロボノイド「クリエイタ」に重ね合わせている。エンディングでクリエイタが主人公のクローンを作り人類を再生したように、自らは古きよき時代の「ゲームゲームした」ゲームを現代に蘇らせているのだ。

 ループする世界。それでも、生きることは素晴らしいのか。それとも、そこにあるのは諦念か……。あるいは、自らの力で滅びのループを断ち切ることも不可能ではないのだろうか。
 未来は、これからの企業がどのようなゲームを世に送り出すのか、それをプレイヤーがどのように受け止めるかによって、変えられるものだと信じたい。



●コラム(左ページ上段)

シルバーガン元ネタ紀行
■(ステージ3A開始直後写真)
スタート直後、画面右端に隠しキャラのメリーさんが出現。しかし、点数はたったの10点。
                      
■(『ゼビウス』スタート直後の写真)
元ネタは『ゼビウス』のスタート直後の隠しメッセージ。これも10点だったのである。


■(4Aボス最終形態写真)
ステージ―4Aボス「LUNAR−C」。3機合体したあげく、アトミッ●パイルまで!?
                      
■(『ムーンクレスタ』最強状態の自機写真)
元ネタは3機合体する『ムーンクレスタ』の自機。井内さん、この手のゲーム好きなのね。


■(3Cボス『ギャロップ』画面写真)
初めて見たときは、ちょっと唖然。しかも、初期は名前が「R−Q」だったんだよ〜。
                       
■(R−TYPE画面写真)
はい、元ネタは「R−TYPE」の自機です。正確には「R−TYPE II」かも?



●このページを読むために知っておきたい
『レイディアントシルバーガン』あらすじ


 人類最後の生き残り、主人公のバスターとレアナは襲い来る敵を次々と撃破していくが、「石のような物体」の最後の爆発に巻き込まれ、命を落とす。そこでいったん、人類は完全に滅亡するのだが、直前にすべての歴史を知ったロボノイド・クリエイタは、二人が最後の戦闘に赴く前に頭髪をもらい受けていた。人類滅亡後、ただ1人(1体?)地球上に残されたクリエイタは二人の頭髪からクローンを作り、人類を再生させる。そして再興した人類だが、再び同じ歴史を繰り返し……というのが『シルバーガン』世界の人類滅亡〜再生までの大筋。人類は超越的存在である「石のような物体」の干渉により同じ滅亡の歴史を延々と繰り返しており、破滅のループから逃れられない存在として描かれている。


●「原文」について

 これはサターン版に関するネタになりますが、どうしても外せない要素なので今回掲載することにしました。シルバーガンの最終面は「石のような物体」と対峙し、ひたすら攻撃を避けるだけのステージであることは、アーケード版をプレイした人ならご存知のことと思います。この場面、アーケード版ではBGMが一切無いのですが、サターン版ではきちんとBGMがあり、同時に人々の「声」が聞こえます。右ページの下にまとめてあるのが、ゲーム中に実際に流れているセリフ。そして、そのセリフが本当に意味するところ、つまり「原文」がこのページの下に載せてあります。ゲームに関わるすべての人に対するメッセージ、井内氏自身の初心表明がここに込められています。



●コラム(両ページ下段)

サターン版で流れる「声」

STAGE:1 LINK
100000 B.C 7.13.18:06

「この世に生まれし第11の息子よ、銀の銃を持って人々の魂を撃ちぬくのだ」
「お願い、あきらめないで」
「愚かじゃよ人類は……」
「人よ立ち上がれ! この大地は神が我々に与えしものなのだ」
「あんた、正気なのか? 自分のやっていることが分かってるのか?」
「なっ、何をする!」
「希望を持ちましょう、そしていつの日か必ず」
「この荒れ果てた大地を見るがよい、これが我々に与えられた天罰なのじゃ」
「殺せ! そして奴等を根絶やしにするのだ!」
「戦争を止めることは出来ないのだよ。戦争はお互いが正義じゃからな……」
「お願い、あきらめないで」
「ここには夢や希望なんてない……」
「緑に覆われていたあのころの風景はなくなってしまった」
「あきらめないで」
「わたしにだって夢はあったわ、でもどうしてかしらね」
「これからは人を中心とした政治が必要なのだよ……」
「このことにより世界大戦は避けられないものとなりました」
「我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにも分かっているはずだ」
「サイは投げられた。もう誰にも止めることはできん」
「世の中は移り変わってゆく……しかし、変わらないものがひとつだけあるのだ」
「あきらめないで」
「俺の夢はね……この宇宙の中にあるんだ」

「わたしのこと、愛してる?」

「!?」(爆発)



原文

私的代弁者:「この世に生まれた11番目の作品『シルバーガン』をもって人々に訴えかけるのだ」
私的かつ客観的代弁者:「お願い、あきらめないで」
正しき主観を持つ者:「愚かだよ、俺たちは……」
無知な商売人:「創造者よ立ち上がれ! この金を生む業界は我々のためにあるのだ」
道理を理解する者:「あんた、正気なのか? 自分のやっていることが分かってるのか?」
道理を理解する者:「な、何をする!」
気休めの言葉:「希望を持ちましょう、そしていつの日か必ず」
正しき主観を持つ者:「この最悪の市場を見てみろ、これが自業自得の現状なんだよ」
無知な商売人:「クビだ! 奴等を全員クビにしろ!」
客観的代弁者:「争いを止めることはできない。創造者も商売人もお互いが正義だと思っているからな……」
私的かつ客観的代弁者:「お願い、あきらめないで」
去りし者1:「ここには夢や希望なんてない……」
創造者:「ゲームそのものが楽しいと思っていたころの感覚はなくなってしまった」
私的かつ客観的代弁者:「あきらめないで」
去りし者2:「わたしにだって夢はあったわ。でもどうしてかしらね」
視野の狭い商売人:「これからは視野を広く、ライトユーザーを中心としたゲーム作りが必要なのだよ」
客観的代弁者:「このことにより両者の対立は避けられないものとなりました」
私的代弁者:「我々は考え直すべきです。皆さんにも分かっているはずだ」
客観的代弁者:「サイは投げられてしまっている……もう誰にも止めることはできない」
希望的観測者:「しかし、世の中が移り変わっていっても……変わらないものがひとつだけあるはずだ」
私的かつ客観的代弁者:「あきらめないで」
私的代弁者:「俺の夢はね……この創造空間にあると思いたい……」

ゲームたる者の存在:「わたしのこと、愛してる?」

全員:「!?」(爆発)




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