06/03/12 アップ

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『スグリ』 side:A その1


**************


「どうしても?」
「どうしても」
「本当にどうしても?」
「本当にどうしても」
「本当にどうしても、ここに残るって言うのか?」
「本当にどうしても、ここに残るって言っているんだ」



ガレキの山の中、小さなバラック。手狭な場所にうず高く積み上げられた機械類、地面や
天井を這い回るように張り巡らされた数多のケーブル。

そこに二人の男が居た。



二人のうち、若いほうの男が言う。
「だって無理じゃないか。ここまでボロボロになったこの星を、どうにかするなんて。誰
にだってできっこない。俺にも、おまえにも」

屈みこんで床に伸びるケーブルとケーブルを繋ぎながら、もう一人の温和な表情の男が言
う。
「無理じゃない。確かに今までは無理だった。でもこれから先、どうにかできる可能性は
ゼロじゃない」
「だからって……」

若い方の男は無意識に拳を握る。
「だからって、限りなくゼロに近いのは変わらないだろう! おまえは俺らのリーダーに
相応しい人物だ、おまえが一緒に来てくれれば、みんながどれだけ安心できるか、心強い
か!」

「私はそんなガラじゃないよ。それに、そのためにこそ君がいるんじゃないか。あの『守
り神』だって、そのためにいるんじゃないか。君だって、それに納得して『守り神』を生
み出すのに手を貸してくれたじゃないか」

「『守り神』じゃおまえの穴は埋まらない。何よりおまえ自身はどうなんだ。このどうに
もならない星を、どうにかできるつもりなのか。どうにもできず死んでいく可能性のほう
が余程高いのに、他の連中に付き合う必要なんて全然ないのに」

「まあ、そうだろうね」
「それがわかっていて、なんで――」
「私自身がそうしたいからだよ」

温和な表情の男が幾つかのケーブルを繋いで立ち上がり、もう一人の顔を見据えて言う。

「どうしようもないから、で諦められないんだ。多分、君の言うことのほうが正しいこと
は、私にもわかる。でも」

部屋の中央を見やる。ケーブルの伸びる先、おびただしい数のケーブルが生えるかのよう
に伸びる台座。その上にある幾つかの機械。ひとつは腕、ひとつは脚、ひとつは胴体。そ
れは人間の身体を模していた。

「やっぱり故郷を見捨てることはできない。例えダメでも、やっておきたいことがあるん
だ」

言うべき言葉が見つからない。そんな様子で、若い男は目線を彷徨わせる。そんな様子を
知ってか知らずか、温和な表情の男は言葉を続ける。別の機械の電源を入れながら。

「それにね。可能性は確かに低いけど、一発逆転のチャンスは掴んだんだ。『守り神』に
用いた技術はかなり応用が利くことがわかった、『守り神』にそれを導入する時間はなかっ
たけどね。これを使えばまだ、この星をどうにかするのは不可能じゃないよ。……私が生
きている間には無理だろうけど」

軽く笑いながら、力強く語るその男に、もうひとりの男は軽く諦めた様子で、ずれた眼鏡
を上げる。

「そこまで言うならわかったよ。俺らは新天地を探す。おまえはこの星をどうにかすれば
いい」
「ああ。そうする」
「ただ、できれば」
「うん?」
「できれば、どうにかできたこの星で、おまえと……は無理でも、おまえ達の仲間と会っ
てみたい」
「わかった。そのときには、きっとこの星は元通りになっているさ」


若い男の腕時計が鳴る。


「……そろそろ時間だ。『守り神』からの呼び出しもきてる」
「ああ。急いだほうがいい、きっと他の皆も待っている」
「そうするよ。次におまえかおまえの仲間と会うのは――」
「――多分、一万年くらい後じゃないかな」
「冷凍睡眠に頼っても、生きていられるかどうかわからんな」


互いに笑った。


「じゃあな」
一人は背を向ける。そして歩き出す。
「じゃあな。『守り神』によろしく」
もう一人も背を向ける。そしてまた別の機械の電源を入れる。



そして。一万年後。
ひとりの男と、もうひとりの男が生み出した『ヒト』は出会う。

――そのときにはもう、若い男は現実という重圧に歪んでしまい、もう一人の男は既にこ
の世の人ではなかったが。




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